私は彼女に謝りたい『かぐや姫の物語』
『かぐや姫の物語』
2013年/日本アニメーション映画
(!ネタバレあり!)
自分ジブリで育ってきたものの、基本駿一辺倒で勲はスルーしがちだったため今作未見でしたが、友人から散々観ろ観ろと言われ鑑賞致しました。
空恐ろしい作品でした。。。
まず各所で絶賛のアニメーション技術ですが、なるほど、ちょっとどうかしてる域でしたね。
人間って絵をあんな風に動かせるのかと。なんというか、生きとし生けるものそのものの動きというか。
赤子の頭が少し跳ねたり、物を拾う動作の入れ込み方だったり、首のかしげ方だったり、桜の花びらの舞い方だったりと、それを、あのデフォルメされた人体造形と手書き線でやられるもんだから、自分が一体今何を観てるのかよく分からなくなってました。
往来を行き交うモブにまで徹底されている凄まじさ。
凄いを超えて戦慄覚えまくりでした。
背景の水彩画も神でしたね。
水彩って画材の性質上、試行錯誤できる猶予が極端に少ないので、正解が見えた上で一発で色や形を決めなくてはならず非常に難しい技法だと思うのですが、素晴らしいお手本を見せて頂きました。
色を重ねた部分と単色使いであんな豊かな世界が描けるのかと、その向こうに見える鍛錬に絵描きの末席にいるものとして頭が下がるばかりです。
ストーリーはよく知られている竹取物語ですが、そういや私、幼少の頃よくわからん話だなと思った覚えがあります。(絵本で読む古典レベルのものですが)
竹から生まれて、美人に育って求婚されたら全部断って、だって月に帰りてぇからっつって悲しむジジババ置いて帰るってどういう事?
じゃなんで地球の竹林に来たん?結局何がしたかったんだよ、何の話だよと。
答えて頂きました。
いやー答えて頂きました。
そういう事でしたか。
駿がロマンチストなら、勲はリアリスト。しかも徹底かつ辛辣なリアリスト。
ニコニコしながら横っ面引っ叩かれるような感覚でした。
月に住まう殿上人には悲しみはないが喜びもなく(おそらく不死だし)、地球の生命の営みに想いを馳せる事はタブー。
その禁忌を犯してしまった罪に対する罰として、地球の竹林に降ろされたのがかぐや姫。
そんなに憧れるならそっちで一回やってこい、どうせ結局こっちに戻ってくるがな(月の神談)
登場人物はほぼ原作通りですが、これといった悪人がいないのが切ないところ。
竹林でかぐや姫を見つけた翁(おきな)。この翁の決めた都移住が最初の間違いなわけですが、大事な我が子に何不自由無い安全な暮らしをさせたいと願う親心はよく分かります。
田舎で質素に暮らしていたものの、ある日ごつい宝くじ当てちゃって、これで都会に行ってデッカい戸建建てて、娘にハイレベルな教育を受けさせよう!
それが娘にとっても1番なのだ!と思い込むのは実に賢明ではないけど邪悪でもない。
ただそこに自分の欲も乗っちゃった。
ここの宝くじは、またも竹から見つかる金や反物ですが、これ月側が毎回仕込むトラップなんでしょうね。
心優しい嫗(おうな)もとても娘想いだが、都行きを止められず。というか最終的な決定権は当然夫側にある時代でしょう。
(ただ、竹から産まれて猫スピードで育つ女児を、そんな事もあるかとスルッと受け入れる柔軟性は見習いたいす)
前半の田舎シークエンスの輝きっぷりは、こっちがうっかり移住したくなるくらい素晴らしくって、この話をずっと観ていたかったです。
あの畑から盗んだ瓜みたいの食いたい。
ここで捨丸なるオリジナルキャラが出てきますが、これは後述します。
中盤、有無を言わさず都の御殿に連れてこられたかぐや姫。(雉鍋食べさせてあげたかった、、っ泣)
広い屋敷ではしゃいじゃうのが良かったです。まだ子供なんだよね。
教育係もめっちゃ手を焼くスーパーお転婆ガールだったものの、(ただ親の前ではしっかりこなす。喜んでもらいたいし安心させたいからね。)お披露目パーティーでメタメタに傷付けられてしまう。
この宴、まじ醜悪でした。。。低俗で下品な大人達がわんさか出てきて、しかもこういう会って絶賛現在進行中じゃないですか。
地位の高い人間ほど、虚無なパーティーやってますもんね。。
怒り、絶望するかぐや姫の疾走感を物凄い筆力で描き、そこから故郷で炭焼きとの静かな対話。
春を待つ木々に自分を重ねて行き倒れてしまう、、ってほんと子供にこんな思いをさせないでくれ!!
月パワーで屋敷に戻ってからは故郷に帰る日を夢見てじっと耐える日々ですが、ここから求婚ターン。
この公達達も馬鹿だけど悪人ってわけではないんですよね。そういう価値観で生きてきちゃってるし。
(ここらへんの人物の所作も面白かったです。あの尻尾みたいな帯?ってああするんだ)
お馴染みの無茶振りからの嘘ばれなど、割とコメディターンだと思うですが、そこで人死にが出たりと結構エグい。
ちょっとぶつかった子供の親に平伏されたり、輩になった捨丸を偶然見ちゃったりと、心折れまくる展開。
序盤からそうでしたが、もうこの辺りの翁が無理過ぎて。
あなたの為を思って棒を振りかざしてくる親って子供はほんとにしんどいんすよ!!!分かって!!!全ての親!!!!(自戒)
そんで帝ですよね。
もう造形の悪意。笑
顎、そして肩パット。
あの後ろからガバッと来られた時の姫の生理的嫌悪顔。秀逸です。
この帝がキモすぎるのがとても重要ですもんね。心からもう嫌だと、こんな所(地球)になんかいたくないと思わせないとなので。
嫗の計らいで故郷に向かった姫が再会した捨丸。
やっと会えた捨丸!美しい故郷を体現していた捨丸!
だのに、、、
この捨丸がまた、、、
なんか愚か、、、
あんなに頼れた捨丸兄さんはどこへ、、、、
(一緒に逃げようじゃねーよ、妻子どうすんだお前、なに即答してんだよ)
高良健吾の少しおぼつかない発声も相まって、飛翔というとても爽快でありながら非常にゲンナリもするというアンビバレントな名シーンでした。
終盤、ついにお迎えに来てしまった月一行。
あっかるーい軽快ミュージックにパステルカラーで、はい!お前ら愚かな人間の苦悩とか哀しみとかまじどうでもいいんで!!
という全く話の通じない別次元感。
かぐや姫のスーッというあの動き、黒沢清ホラー幽霊みたいでした。
別れの際、若干の猶予があるものの途中でぶった切られる。(あそこ無くてもいい位でしたね)
羽衣を掛けられ、全ての記憶を失い(彼女にとっての)煉獄に戻されるかぐや姫があの童歌と共に地球を振り返って涙を流し、月に赤子が映って了。
私のこの月赤子を観た瞬間は、どういう感慨を抱けっちゅーねん!!!!死ぬ!!!!(爆)となったんですが、
よく考えるとこれがこの辛辣過ぎる物語のわずかな希望なのかなと。
おそらくこれからも地球に憧れる月人は現れ、何回も行われた地降ろしが続くはずで、多分前回今回同様失敗に終わるだろうけど、いつか、もしかしたら誰かが人生を全う出来る日が来るのではないか、、というかすかな希望。
(でも人間が愚かな限り、その日は永遠に来ないけどね。バッチーーーン!!!)
生命の輝きに焦がれて人の業に潰されたかぐや姫の物語。
漫画版ナウシカでは、その人ですら美しい生命そのものなのだと結論付けましたが、こちらでは徹底して突き放す。
なんというか、心底ごめんなさいという気持ちになりました。。。ごめんね、かぐや姫。。。俺たち、頑張ってもっと賢くなるよ。。。。
なんやかんや打ちのめされはしましたが、しかし自分の人生の財産となる大事な作品を鑑賞できましたと思います。
高畑監督、ありがとうございました!!!!!