私的最高作品『お嬢さん』

『お嬢さん』韓国映画/2016年

 

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1939年、日本統治下の朝鮮半島。孤児として生まれ、詐欺集団に育てられた少女ナム・スッキ(キム・テリ)は、捨てられた乳児の世話をして日本人に売ることで生計を立てていた。

ある時、「藤原伯爵」と名乗る詐欺師(ハ・ジョンウ)がスッキたちにある計画を打ち明ける。それは、日本人の華族と結婚して「上月こうづき」という和名を手に入れた親日派朝鮮人の男(チョ・ジヌン)の姪・秀子(キム・ミニ)を誘惑して夫となり、上月の亡き妻が遺した莫大な遺産を手に入れるというものであった。藤原伯爵は、スッキに上月家の女中として働き、秀子と自分が結ばれるように手助けするよう持ちかける。報酬が手に入れば自由の身になれると考えたスッキは、伯爵の話に乗る。

スッキは侍女「珠子」として豪壮な上月邸に潜入し、侍女長の佐々木夫人(キム・ヘスク)の案内で令嬢・秀子に近づくことに成功。秀子の小間使いとして身の周りの世話をすることとなる。

書籍愛好家として知られる上月は離れに広大な書斎を設けており、秀子は決まった時間になると朗読の練習に行くと言って上月が待つ書斎に向かう。スッキは秀子から呼びに来るよう言われた時間に書斎を訪ねるが、室内に足を踏み入れることは許されない。どこか陰のある秀子の美貌と予測不可能な言動に翻弄されるスッキであったが、昼夜を分かたず時間を共にする中で距離を縮めていく。

上月邸に現れた藤原伯爵が計画どおりに秀子を懐柔する一方で、秀子に惹かれ始めていたスッキは、彼女が伯爵の術中に嵌っていく様を見過ごすことができなくなる。謀略と情愛の狭間で葛藤するスッキ。しかし、秀子と藤原伯爵、そして上月の間にもまた、ある秘密があった。(Wikipediaより)

 

 

(ネタバレありー!!!!!!!)

 

 

 

もう、最っっっっっっ高でした(号泣)

 

 

私の好みのドツボで、観たいものが全て詰まっている作品でして…。

映画館に行かなかった事を後悔するくらい大事な作品になりました。

 

 

原作はウェールズの作家、サラ・ウォーターズの小説「荊の城」ですが(こちらは未読)、舞台を日本統治時代の朝鮮に置き換え、ストーリーもかなり変更が加えられているようです。

 

 

何の前知識もないまま鑑賞したのですが、(それが良かった!)

 

物語は3部構成になっており、

 

第1部は、女中スッキ(珠子)目線

 

第2部は、お嬢様秀子目線

 

第3部に、総まとめ

 

といった感じ。

 

 

 

この1部と2部の視点の転換に痺れまくりでした。いやー、やられた、やられた。こういうの大好きですよ。

 

 

最初の主人公であるスッキは、詐欺擬似家族の中で色々なスキルを身につけ、よく目端の利く(と自分では思っている)少女。16〜7歳位かな。

 

仲間の藤原の誘いで、大金稼いで朝鮮からおさらばする為に虎視眈々とお屋敷女中として、任務遂行していくものの、徐々にお嬢様秀子に情が移り、悩ましい…と思っていたら、実は騙されていたのは自分の方だった!!!

 

という1部目。

 

 

クルッと視点が変わり、秀子目線で語られる彼女のこれまでの人生。

 

母の自死により孤児となった没落貴族の秀子は、叔母のいる朝鮮に引き取られるが、その叔母の夫、日本に帰化した朝鮮人、上月のクソ変態趣味(エロ本を金持ちの前で朗読させたり、SMプレイを強要)の為、虐待されながら育つ。

 

(ここ、辛かったなぁ…。少女時代の子役がまたほんと可愛くて…。)

 

ある日、朗読会に来た藤原に、上月の出張中、女中と3人で財産持って日本へ逃亡し、女中を秀子名で精神病棟にぶち込んだ後、金を山分け&結婚という計画を持ちかけられ了承。

 

そこで後の犠牲者、スッキが登場するわけですが、ここから1部の場面に全く違う感情が立ち上がってくるのが素晴らしかったです。

 

交わす目線や小道具など、なるほどそういう事だったのねー!という伏線回収における快感。

 

あ、そうそう、今作は百合映画として名高いかと思うのですが、あの濡れ場ね。

 

まずは役者さんのガッツに感謝。

 

百合に限らず性的なシーンの場合、現場がどうだったか、また必要なシーンだったのか、最近は常々気になるのですが(その点を考慮し専門家を入れたSEX EDUCATIONは素晴らしい)、諸々の記事を読むと監督はかなり気を使っていそうで少し安心しました。(現場までは分からないのですが、役者陣と綿密にディスカッションを重ねた模様)

 

 

そして、ずっと性的搾取虐待されてきた秀子が自分とスッキの為にその知識を使い、お互いの手を取り合うシーンは最高でした。

 

 

その後、秀子とスッキが藤原の目論見を超え結託し、逃亡計画遂行の夜、秀子の牢獄である蔵書部屋の春本をメッタメタに破壊するカタルシスからの夜明けの平原を駆ける2人の美しさ。

 

何と素晴らしいっっっ!!!!!

 

「私の人生を壊しに来た救世主」

 

素晴らしすぎるーーーーーっっっ!!!!!

 

 

 

ちょっとここで役者陣を…

 

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女中スッキを演じたキム・テリ氏

 

そういや「スペーススウィーパーズ」で上手だなと思ってたこの方、ほぼ無名の状態から1500倍ものオーディションを通過し抜擢。

 

小賢しく野心はあるが、根が純朴で感情をすぐ表に出してしまうこの役にピッタリでした。

細かい仕草や表情から、スッキをよく理解している事が伝わりましたし、身のこなしなどもリアリティーがありました。

 

 

 

お嬢様秀子を演じたキム・ミニ氏

 

この人凄い…。この、何ていうか、色気っつーか、色香。

顔立ち自体が絶世の美女ってわけじゃないのにドシャドシャ出てましたね…。

もうここまで来ると芝居を超えて、ご本人の何かなのでは、とも思います。(実際モテモテなようですし…)

 

いや勿論お芝居も超絶激うまなんですけどね。ほんと芝居ってセンスだな〜って思います。

 

あの、スッキが精神病棟に入れられた時のこっそり涙を堪える様子、ああいう些細な表現に物凄く長けた役者さんだなと。

参りました。

 

 

藤原伯爵を演じたハ・ジョンウ(左端)

 

もうこの人物だけで1本作れるのではというくらい深みのあるキャラクター藤原。

下男とムーダン(祈祷師)の間に生まれ、蔑まれ、しかし持ち前のクレバーさと器用な手先でスラムをサバイブし、日本人に成りすませる程流暢な日本語を話す彼。どんだけ努力を重ねたんだと。

監督曰く、藤原は「学び損ねた男」だそうで。確かにここまで能力が高いので、きちんとした教育を受けられさえすれば、正しい方向にその力を使えたんだと思います。

そういう意味でも泣ける。

しかもさ、彼は秀子に一目惚れしてたんですよね。どうしても手に入れたいけど、正攻法じゃまず無理だから、その良い地頭フルに使って計画して、その上、彼の世界で弱みを見せるのは御法度だから秀子に全然愛してない、金しか興味ないとか言っちゃって。

もし、藤原が本音を見せていたら展開も違っていたのかもしれないとも思いました。

それもいい!!!!

 

でまた、ハ・ジョンウが最高なんですよ。

この人も独特の色気があるんですよね。目がいいなと思いました。「チェイサー」の時は死ぬ程キモかったあの目がこんなにも情緒を語るのかと。ちょいちょい下卑た表情になるのもうまかったですね〜。

 

 

 

上月を演じたチョ・ジヌン氏

 

「シグナル」のイ・ジェハン!!!

あのイ・ジェハン!!!!!!

がっっっ!こんなにキモくっっっっ!!!

凄すぎるーーーーーー!!!!!!

キモーーー!!!!すげぇぇぇぇぇ!!!!

 

この上月という男は上昇志向から日本に帰化した朝鮮人なので、全編通してラスト以外の台詞が日本語なのですが、彼の日本語に感動しました。

 

というか、主要キャストの台詞半分は日本語なんですよ。これ自体が凄いと思いますし、皆さんきちんと喋ってる。私は日本語ネイティブですが、ほとんど正確に聞き取れます。これは本当に凄まじい努力だと思います。秀子に至っては東北弁まで話す!!

よく日本人キャラを出しといて全く聞き取れない日本語を話させる映画も多いですからね。

この長台詞の掛け合いをこなした役者陣を心から尊敬します!!

 

で、ジヌン氏ですが、何というか日本語が日本語の音程になってるんですよ。間とかも、完全に単語や文法を理解している話し方。

 

彼の芝居が自分的に超好みという事も相まって至福の極みでした(泣)

 

 

他には佐々木夫人の妖怪感や、叔母の狂気など、あ、イ・ドンフィ氏も端でいましたね!

 

 

 

 

物語の終盤、スリ一家の手を借り精神病棟を脱出したスッキと、藤原から貞操を守りきった秀子が偽造パスポートで上海へ出国。

 

上月の追手に捕まった藤原は地下の拷問部屋を連れていかれ、きっちり拷問を受けるものの水銀煙草で上月を相討ちにする。

 

この拷問シーン、凄惨でありながらなんかコミカルで良かったです。

 

女性2人に復讐をさせない所もいいですね。

お前らなど勝手に潰しあって勝手に死ねという。

 

死ぬ間際、藤原が弱っていく吐息と共に思い返す秀子の様々な表情。

めっちゃ惚れてたんやな。(いいね)

 

 

ラスト、船上で自由を謳歌する2人のベッドシーンで終わるのですが、すみません、正直ここ初見では蛇足では?と思ってしまいました。

 

ここまで見せられなくても、鈴の音とかだけで分かるんだけど、と。

(あと知らんがなって話ですけど、私えづき癖があって、あんな大きな鈴を口に入れるシーン観るだけでえづいちゃうんですよね…。思い出すだけで今もちょっとえづいてる)

 

ただ監督インタビューで、

 

''メイルゲイズ、男性視点で撮ってはいけないと、自らを検閲しながら撮っていました。
とはいえ、女性の体の美しさ、女性が快楽を楽しむことに対する賛美を惜しまず、
ポジティブなものとして捉えたかった。
私は原作を読んでいた時から最後は濡れ場で映画を終えたいと思っていました。
というのは、秀子は子どもの頃から性的に強い搾取を受けて成長してきた女性だから。
最後は男性の視線にさらされる対象、男性が好む物語を朗読する女性ではなく、
好きなことをし、快楽を追求する形で終わらせてあげたいと思いました。
それが私からの秀子へのプレゼントです。"

(三角絞めさんブログから引用)

 

と仰っていて、なるほどなと。

そういう事ならいいよ!となりました。(あっさり)

 

 

兎にも角にも、美術も衣装も映像も音楽も全てが美しく、その上、胸のすくシスターフッド

 

また自分にとって1番好きな映画が増えてしまいました。

 

こういう映画体験がしたくて、私は映画を観ているのです!

 

最高でしたーーーー!!!!!!