Yes!Chef!!!「THE BEAR」

「THE BEAR」「THE BEAR partⅡ」

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(邦題:一流シェフのファミリーレストラン)

 

 

ネタバレあり!!!

 

 

(勝手に)信頼している作家兼イラストレーターのぬまがさワタリさんがオススメしていた本作、全く知らなかったのですが観てみまして。

 

傑作でしたッッッ!!!

 

こういう作品が観られるからやはり人生は楽しい。

前知識ゼロで臨んで、後から調べてたらめちゃくちゃアメリカで賞獲ってたんですね。そら獲るわ。

 

主役カーミー役のジェレミー・アレン・ホワイトさん、存じ上げなかったのですが、何と良い役者か。

顔がまず良いですよね。画が持つ持つ。どなたかが若き日のアル・パチーノのようだと仰ってましたが、なるほど確かに。

またあの太い首や二の腕が小柄なのに愛称である「Bear」を連想させるというか。

 

パートナーとなる若きシェフ、シドニーも本当にナチュラルな演技で。才能はあるけど、過去の様々な経験により、時折見せる自信のなさや焦り、怒髪天のその先に行っちゃった時のあの感じなど見事でした。

 

もう皆さん素晴らしいので、全員褒めて周りたいのですが、ちょっとここはリッチーを主に。

 

1の時の彼は本当に見ていてストレスが溜まるというか、いい歳なのに粗野で幼稚でタフな振りしてやることなす事迷惑で空回る、どうしようもない奴で。(ファクとの喧嘩とかよくもあんな下らん事で大騒ぎできるなお前ら)

45歳でこの状態はだいぶ厳しいぞ…と思っていましたが、本作に幾つかある神回の一つ、「リッチー、超名店で修行するの巻」が素晴らしかった…

嫌々研修に行かされたカーミーの古巣で、もちろん初めは怠そうなんだけど、先輩の(彼もいい)「周囲と自分に敬意を払え」という言葉、スーパープロフェッショナル達のスーパー仕事っぷり、合理的に美しく整えられた職場、そしてオーナーシェフテリーとの僅かな、しかしとても豊かな会話。(2はゲストが豪華らしいという事は小耳に挟みましたが、まさかのオリヴィア・コールマン登場という…)

この経験を通して、その後リチャード・ヤーモヴィッチが真のウェイターとして覚醒していく流れは最高でした。

人と関わるのが得意なリッチーはそもそも適性があったとは思うのですが(カーミーもそれが狙いだったわけだし)、学ぶ事の大切さと楽しさが溢れまくっていた回でしたね。

同じように少し前にデンマーク修行へ出たマーカスとルカのあの静かなやり取りも本当に珠玉でした。(あの出てくるだけで不穏なウィル・ポールターがルカ!!ここも最高のサプライズ!!!抑えた渋い演技が素晴らしい!!敵わなかった同期が実はカーミーというオチも良すぎる)

リッチー覚醒編は、おそらく今作一の最恐神回「地獄のクリスマス編」の後だったので、視聴者としてはその構成もとても助かりました。(精神を立て直すのに)

 

で、その「地獄のクリスマス回」ですが、

 

全然方向性は違うけど、ラスアスの3話目を観た時のような、ボリュームも内容も独立した1本の映画のようでしたね。(タイトルもベルツァットだったし)

サラ・ポールソンボブ・オデンカーク、そしてジェイミー・リー・カーティスという…(多分他にもいる、すんません私が知らないだけで)そこに加えて、1でのビッグサプライズ、亡き長兄マイケルことジョン・バーンサル

なんか怪獣映画みたいでした。すごいんだもんな、みんな。それまで厄介者だったリッチーがおとなしかったもん。

1で一瞬ママがちょっとアレなのかな?という台詞が出てきましたが、ここまでとは。

うーん、ここはなんかとても思うところがあって。

あのお母さんの病的な不安定さは医学的なケアが必要な状態だと思うけど、おそらく長年放置したままどんどん悪化しているんでしょう。

もともと気質に起因するかは分からないけれど、おじの話によると夫は生前ビジネスが上手くいかず働き詰めだったので、多分彼女は3人の子供をワンオペで育てたと。3人ワンオペってまじで激務だし、自分の事は全て後回しになると思う。心身共に限界を超えた毎日で、しかも自分を労ってくれる人はいない。(ここでの労りは残念ながら子供からでは与えられないものなのかも)

あの状態は何も良い方向に進まないけれど、彼女は彼女で地獄だよなっていうか、単純に毒親だー!と責められないというか。ジェレミー・リー・カーティスの怪演がそうさせました。

一方で胸を締め付けられのはナタリーですよ。息子達とはレベルの違う激烈な反応をされる娘。ナタリー側に立つと本当にきつい。実の娘にf※※k you!!!!!って… それでも後のオープニングパーティーにお母さん招待するナタリーが、そうなんよだね…子供ってそうなんだよね…泣

まるで太陽のような(しかし実は絶望していた)マイケルの自殺も、自分の気持ちを上手く表現できないカーミーの内気さも、この不安定な環境による所が大きかったのだなと。

ナタリーが夫にピートを選んだのも1では全然理解できなかったんですが、今は凄く納得しかないですね。あんないつ暴発するする分からない爆弾と暮らしていたら、そりゃピートみたいな(多少空気読めなくて若干ダサくとも)絶対不機嫌にならない人と穏やかに過ごしたいって思うわ。

 

印象的なシーンはいくつもあるのですが、カーミーにドタキャンされたシドニーが色々な店を食べ歩く回も好きでした。新メニューの構想の過程が可視化されるシークエンス、素敵でしたねぇ。シドニーの大喰らいっぷりも天晴れ。(デザートにドでかいサンデー食べる所はさすがに胃もたれしましたが…)

 

それに衣装も好みでした。カーミーのジャストサイズ白Tに影響されて即買いに走りましたし。(ユニクロへ)

 

そうそう、肝心のお料理たちなんですが、後半出てくるハイスペ創作メニューがハイスペ過ぎるし食べた事ないしで、果たして美味しそうなのかどうか分からなくなってました笑 シソのジュレとかバニラアイスのキャビアとか庶民には分からんのですわ…。前半のサンドウィッチやナタリーへのオムレツが普通に美味しそうという。

 

全方位好み過ぎる作品なんですが、個人的にはクレア問題はスルー出来なかったっす…

出てきた時から、あっ…なんか…面倒くさい…と思ってしまって…。1から店の面々に思い入れているので、ポッと出が横槍入れんでくれ!今カーミーめっちゃ忙しいんだよ!!っていう…。

この心がざわつく感じ、おそらく本作の素晴らしい製作陣は織り込み済みでしょうね。クレアは店のカオスから距離を置いた存在で、「愛」とか「幸せ」の象徴なのかなぁと。

幼少から、それらを上手く構築出来ない環境にいたカーミーが今後どうしていくのかを3でやるんですかね。

 

っていうか3あるよね?!これで終わらんよね?!!!

 

あ、あと例のクソダサ邦題ですが、この切れ味が魅力の作品に全くキレのないタイトルつけるって逆に凄いなと思うし、視聴者の間口を広げたいんなら、もっと真剣に考えてほしいです。(38師機動隊と同じ所感)

 

とにもかくにも大好きな作品がまた一つ増えた幸せを噛み締めまくりながら3を待とうと思います!(あるよね?作ってくれるよね?)

 

 

 

 

 

自覚し、思い出すということ「TAR」

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(ネタバレあり!!!)

 

「TAR」

 

劇場で見逃し配信で鑑賞した本作、ブッ刺さりました。

 

事前情報では難解な作品であるという噂が聞こえてきたのですが、お話自体は「天才の栄光・挫折・再生」というシンプルな流れだったと思います。

 

とはいえ、そこここに差し込まれるクラシックネタやトリッキーな構成による伏線などは初見だけでは把握しきれず、町山さんの解説を聞いて2回観ました。

 

とにかくもう、ケイト・ブランシェットが凄いに尽きるんですが…とにかくケイト・ブランシェットが凄かったです…。

 

リディア・ターという人間が実際に存在するとしか思えないというか。全編出づっぱりでしたが、彼女を観ているだけでまず眼福でした。

性差を超越したドチャクソかっこいいオーラの上にバッチリオーダーメイドで仕上げたシャツとジャケットを纏いながら、各賞総なめの天才な上になんかユーモアもあるっていう、そりゃ世界はメロメロになりますわ。

というパブリックイメージとは裏腹に、あれ?この人ちょっとどうなん?となる序盤の講義シーンがまず良かったです。

ジュリアードで学ぶ若い青年の持論を、膨大な知識と話術で完膚なきまでやり込めていくあの時間。胃がギューってなりましたよ。あそこ、わかりやすく罵倒したり手出したりしてないけど、完全に彼を潰す気マンマンで指導者としては最悪ですよ…。ほんと、もうやめたげてっていう…。

 

そして、オルガの登場、クリスタの自殺によってどんどんターの人生はガタついてくるわけですが。

冒頭からクリスタの影はずっとチラついていて、全貌は明示されないけれど何となく彼女と何があったかは察せられるんですね。一時期は恋人のような関係にあったが、おそらくターが一方的に彼女を捨てて、しかも将来の妨害もしていた。(この時すでにシャロンと夫婦関係にあったのか、もしくはシャロンに乗り換えたのかは分からないがいずれにせよ最低…)

 

1人の人間の人生を文字通り潰したのに、オルガという若く可愛く才能に溢れた女性にまたゾッコンになっちゃって、私情にまみれた決定を下していく様が本当に低俗でして。

 

ケイト・ブランシェットの何が凄いって、あんなにカッコよく美しくある人が、ギャルの出現によってジャンルとしての「キモいオヤジ」に成り下がってしまえる所。

まじ、オルガにいいように扱われるターがただのキモオヤジでめっちゃ哀れでしたね…。

 

そんなこんなで、ターの悪行がSNSで拡散されたり(悪意によって編集された動画ではあったけど)、クリスタの遺族から告発されたり、本番の舞台で代理指揮者ぶん殴ったりして(ここの表情すごかったっすね)、全てを失った彼女は実家に戻るわけですが、ここでまた我々は驚かされる。

クラシックやる人って、ある程度裕福な家出身な事が多いと思いますが、ターの実家、超普通。町山さんの解説によると、スタッテン島という都市部で働くブルーカラーが多く住むベッドタウンらしく。鉢合わせした兄も労働者階級だろうし、母親が聴覚障害者という設定もあったそうで。

そんなクラシックはもとより音楽とは縁遠い家庭で、たまたま観たバーンスタインの子供向け音楽番組によってターはこの道を目指した人なんですよね。

それを思うとターはどれだけ努力したのだろうかと。天才的な才能があったとしても、その過程では差別もされただろうし、金銭的な苦労もあったでしょう。それでも歯を食いしばって、名前もリンダからリディアに変え、戦略的に自分をプロデュースしてきた人間なんですよね。ただ立場が上がっていって権力に胡座をかいた時、濁って鈍ってしまった。

 

バーンスタインのビデオを観て、自分の初期衝動を思い出したターはその後フィリピンに行くのですが(もう欧米で彼女を使ってくれる場所はないので)、ここで自分がこれまでやらかしてきた若者への搾取を自覚し、嘔吐するシーンがあり。これね、本当に自覚してもらえて良かった。(ここもさ、普通にマッサージ行きたいって言ったら間髪入れずにあの風俗店紹介されるって、ターの悪癖は全然フィリピンまで届いてるってことですよね)

 

大ラス、ターの指揮によるコンサートが始まった所で幕なのですが、私ここ号泣でした。

 

いつものように、集中して全力で指揮台に向かうター。コンマスと握手をし、キリッとお辞儀をするとヘッドフォンを渡されオケの後ろにスクリーンが降りてくる。

おや?と思っていると、音楽と共にいざ冒険へみたいなナレーションが入り、客席はトンチキな格好の人で埋まっている。幕。

 

ここ、は?みたいな観客が多かったようですが、幸い多少オタク文化に触れていた自分は、これはレイヤーさん!つまりゲーム音楽のコンサートか!と。

これ、凄く良い終わり方だと思っていて。めっちゃ想像で申し訳ないんですが、ガチクラシック勢からすると、「ゲーム音楽の指揮www」みたいな感じで、ともするとター落ちぶれてたって思われそうですが(すんません、想像ですよ?)、違うんだと!こういったキッカケで音楽にオーケストラにクラシックに興味持つことは十分にあるわけです。そこから若い才能が出てくることだってあるわけです。これがクラシックの間口を広げ、後進を育てることなのです!

 

ターは天才でありながら、権力に溺れた人ですが、音楽を愛する気持ちだけは残せた。だからプライドも社会的評価も捨てて、純粋な「音楽を好きという気持ち」に立ち返り、真摯に向き合い、また再生を目指すところでこの話は終われたんだなと思います。(モンハンのナレーションもピッタリでしたね)

 

とはいえ、じゃあターが何もかも忘れてスッキリ再出発というわけにはいかないだろうというか、実際人が亡くなってるので、それは一生ついてまわると思うし、彼女が背負っていくべき事だと思います。遺族は許さないでしょうし。

ただ今作での救いは、彼女が自分の行いを自覚出来たことかなと。 

 

スケールはだいぶ違いますが、私の身近にも似たような人がいて。能力があって、地位も名声も得たけど、それゆえ奢って周りの人間を消耗品のように扱い、信頼を失い、しかも無自覚という。あーこれはキツいなぁと感じました。

 

もう1つ、この作品では作家本人の人間性と作品自体を分けて考えるべきか否かという問題があると思うのですが、これは私もまだ答えが出ておらず…。ただ、例えば映画でいうと、凄く楽しんで観た作品の監督が実はクズだったみたいなニュースを聞くと再度観る気にはならないし、今後も新作を観ようとは思えないという感じですかね。これ、ほんと辛い。好きな作品だと尚更辛い…。

 

人間、欠点は誰しもあるし、常に品行方正であれとは思わないですが、やはり周りの人間には最低限敬意を持って接して頂きたいですな…。

 

というわけで、「TAR」は本当に素晴らしい作品でした!ケイト・ブランシェット、そしてトッド・フィールド万歳!!!

 

全ては彩度とお花の向こう側「Dinner」

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(映画版、小説版のネタバレあり!あと、蜷川作品好きな方は読まないで!)

 

こちら「Dinner」

 

観ました。

 

もう10年以上前に平山夢明氏の小説「Dinner」を読んだのですが、面白過ぎてすぐにもう1回読んだ思い出あります。

 

平山氏の著作は、本屋で「独白するユニバーサル横メルカトル」をジャケ買いして一気読みしてから全作ではないのですが、ちょこちょこ読んでます。

私は元来「痛そう」な描写が苦手でして、そのせいで映画「ホステル」も観てないんですが、平山氏の作品はとにかく「痛そう」。なのに、物凄い筆力と圧倒的な面白さで読めてしまう。

 

Dinnerは殺し屋たちが集まるダイナーが舞台なので、とにかく痛そうな、凄惨なシーンのオンパレード。そしてそこに主人公の1人オーナー、ボンベロが作る超絶美味しそうなお料理描写が同時に挟まってきて、ほんと頭がおかしくなりそうな作品。(最高)

 

もう一つ、平山作品の特徴として、無国籍感があると思います。本作も一応日本っぽいんですが(もう1人の主人公の名前はオオバカナコだし)キャラクターの名前はそれぞれだし、湿度の低い荒涼とした土地を思わせるような作風で、しかしそれらがきちんと世界として成立しているのが魅力だと感じます。

 

つまりはファンなんです。

 

で、この映画版「Dinner」

 

これなんで観たかっていうと、友人たちとアレな作品を敢えて観るという悪趣味な会を定期的に開催してまして。だから完全に当たり屋です。文句言う為に観てるんで、こっちが悪いんです。今作の為に尽力された沢山のスタッフの方々は悪くないです。ただあまりにもアレだったので、記念に書き記しておきます。(今作や蜷川実花作品が好きな方は読まないで※2回目)

 

 

なんというか、ほんっとーーーーに蜷川実花という人とは合わないんだなと思い知らされましたね。

 

あの原作から、こうなんのかという…。ちゃんと読んだ…?

 

というか、彼女はやっぱこれしか引き出しがないんでしょうね。どんな素材も、バッキバキの彩度とお花で埋め尽くすっていう。まぁ逆にこれが蜷川印というか、作家性といえば作家性なんだろうけど。

 

なんか全ての解像度がめっちゃ荒いんですよ、彼女。メインのひとつである料理が特に魅力的じゃないし。「ガワ」しか見てない感じ。あのキュウリ丸ごと一本挟まったハンバーガー何?ピクルスってこと?生にしか見えなかったよ?最後の晩餐の料理の粒々も何?ボンベロ、そんなチャラいメニュー作らないよ。あの絵面しか意識してないキッチンも何なんだ。ボンベロ、プロだぞ?

 

人間がさっぱり描けないことは「followers」で証明済みですが(これも当たり屋した)、ここは原作が傑作だった事に助けられて(あと役者陣が頑張ってた)、スキンやキッドなどキャラとして印象には残る。

でも後は有名人出してお茶濁してたっていうか。

あと、気味悪いのは自分の親父の肖像画を亡くなったボスとして出してたけどさ、それは5万歩譲ったとして、終盤で藤原竜也に俺はこのボスに見出され育てられたって言わせるの、あまりに作品の私物化が過ぎるだろ。それやりたいんならオリジナルでやってくれよ。ひとの作品でやってくれるな。

 

原作では、大殺戮から1人逃げ出せたカナコが逞しく成長し、ゴロツキ相手に自分の店を切り盛りしつつ、いつかボンベロと菊千代が来てくれるはずと信じ続ける、カラッとしたエンディングだったんですが(店名の由来とか、爆発の後、ボンベロと菊千代の遺体が見つからなかったというくだりとかが沁みるのよ…読者としては、何十年後かに2人は再会出来ると信じたい素敵なラスト)、

 

勿論、映画ではすぐ再会するから。余韻とかない。そうだとは思ったけど、やっぱそうだったわ。

 

原作の良さをほとんど無くして、蜷川カラーで塗り潰したペラペラな作品だったですが、なんで彼女はこんなにしょっちゅう映画作れるのかがほんと謎で。一体どういう企画会議が行われているの?この先作る作品もおそらくこのテイストだし、大ヒットという話も聞かないし(私が知らないだけ?)、この予算を他の人に回してあげてくれないかな。

 

というわけで全くお勧めできないけど、観たかと聞かれれば観たよと答える、そんな作品でした。

 

 

 

 

相撲という異界「サンクチュアリ-聖域-」

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(ネタバレあり!)

配信当初から話題だった本作をやっと観まして。

とても面白かったです!

一部では相撲版スラムダンクと言われているようですが、直近でスラダン再読した自分に丁度良かったですね。

 

今作、やはり私も「相撲」の再現度の高さに驚きました。特にお相撲に詳しい人間ではないのですが、多くの日本人と同じように幼い頃から相撲は日常の中にあるコンテンツだったので、それなりに正解を知ってるとは思うんです。なのに稽古場も国技館の取り組みも全く違和感が無かった。TVで観てきたまんまで驚きました。

 

そしてあの本物の力士とみまごうほどの役者陣たち。圧巻でした。

色々な記事を読むと2年以上の時間をかけて準備撮影したそうですが、そりゃそうだよねぇと。そのくらい時間かかるよね。それが出来る環境がまず羨ましい。

身体の大きさもさることながら、相撲の取り組みが本当に相撲なのも凄い。他のアクションと違って、ちゃんとぶつからないと撮れないシーンだらけですから、役者さん達はどれだけ努力したのかと。元力士の方もかなり参加していたのも大きかったんでしょう。

改めて考えると、相撲ってやっぱ他の格闘技と全く別物だなと。どの格闘技も厳密に体重で階級分けられている中、完全にスーパー無差別級ですもんね。90キロと200キロがやるって普通無理というか、死ぬでしょっていう。それを取り組みとして成立させる為に、型を永遠に繰り返して稽古していくんだなと実感しました。

本物感のもう一つ、セットも素晴らしかったです。あの国技館がセットだという事実も驚きですが、それぞれの部屋の生々しさたるや。

幕下力士の相部屋やちゃんこ部屋、猿桜の実家、そしてあの静内の家など…とくにあの静内の家の中、あれはきつかったです。極貧なはずなのにモノとゴミで溢れかえっているあの感じ。部屋って持ち主の精神状態が反映されると言いますが、これでもかってくらい理解しました。ある程度、気持ちと時間に余裕がないと人間片付けなどできんのだ…

 

ストーリーは割と王道というか、元不良の成り上がりもの+負け犬たちのワンスアゲインもの(©︎宇多丸師匠)なので、観やすかったですね。

ただ、8話の中で7話目でようやく熱いスポコンものが来るというかなりゆっくりな展開は意外でした。

この、シリーズほぼ使った人間模様の丁寧な積み上げがドラマとしても分厚かったです。

というか、たった8話に結構色んな要素詰め込んでたなと。

相撲の稽古に加えて、各キャラのバックストーリー、親、角界の暗部、スキャンダルなどなど。でも全然混線してませんでした。

 

特にメインキャラとやばい親各種。いわゆる「毒親」と括られがちだと思いますが、そこまで短絡的に描いていない所が好感持てました。

必死に生きてきたけれど、ある地点から上手くいかなくなってしまった人間というか。あの人たちも別に悪として生まれたわけではないんですよね。自分も子供もちゃんと幸せであってほしかった人達。

ただ、上手くいかなくなった時に圧倒的被害者になるのが子供という…特に静内…あれは壮絶…

確か静内って一言も台詞無かった気がするんですが(あった?)、あの巨漢と相まって物凄い存在感でした。序盤のあの取り組み、地獄の様に怖かったです。張り手で人殺せるのマ・ドンソクだけかと思ってたけど、静内がいたわ。耳取れる描写とか嘘だろと思うけど、うん、取れるかも、あれは。(猿桜の、えっ…耳…っ、が超リアル…)

その静内も理解不能なモンスターではなく、絶望や怒り、恐怖を抱えつつも強い力士になる事を夢見ている1人の人間として徐々に立ち上がってくる後半が良かったです。(巨体とシロツメグサの冠という最高のマリアージュ)

思い返せば、猿桜との取り組みで立ち会い直前に浮かべるあの表情も狂気の笑みではなく、母親の辛い時こそ笑えという言葉から来ていたんですよね。そもそも顔に大きなケロイドがあり、凄惨な事件の遺族であり(おそらく犯人扱いもされ)、異常な強さと寡黙さから部屋でも周りから距離を置かれていた中、猿桜だけはなんも気にせず無遠慮にズカズカ詰めてきたけど、そういう関係性が静内にとっては嬉しかったし大事だった。のに、よりによって猿桜からの八百長を仕掛けられて(実際猿桜関係ないのに)とても悲しかったんだなと。

 

一方で、角界サラブレッドであり、横綱を目指す現大関、龍貴関。見栄えも良く、マスコミ受けも完璧。こちらも非常に見応えありました。

横綱で現親方の強権的な父親と、超絶過保護な母親というかなり毒々しい家庭に育ち、自信に満ちた振る舞いの裏で、プレッシャーからひと知れず嘔吐を繰り返す彼。こっちはかなりやばいですな…

この父親はちょっともう手遅れというか。とにかく龍貴を全力で否定しまくる癖に、助言を求められるとはぐらかすみたいなのね、ほんと最悪。父親の中に答えないだけだからね。自分のメンツの為に息子を横綱にさせたいけど、自分は超えてほしくないみたいな。タニマチが宗教の教祖だった時はもう詰んだなと…。龍貴、早く逃げて…。(あの父親も横綱にまでなったのに何があったんや…)

 

そして我らが猿桜ですが、本当に魅力大爆発でしたね。よくぞ彼をキャスティングしてくれたと。

地元じゃ札付きのワルで、すぐガルガルするしすぐ舐め腐るし、すぐ逃げようとするけど、ちゃんとチャーミングさもあるという。(土俵での煽り方とかクラブでのダンスとか、めちゃくちゃフィジカルセンスありますよね)

 

素質は十分なのになかなか本気にならないし、言うこと聞かないし、中盤では力士生命に関わるほどのトラウマ負って稽古出来なくなるし、女には財布盗られるし、タニマチクソだし、母親もクソだしで、かなり焦らされましたが、ようやく開眼した彼が本気で相撲に取り組み、その熱意が部屋全体を巻き込んでいく7話はどうしたってアガりました。これがっ!これが観たかった!!

 

力士達の関係性も凄く良かったです。コンプレックス大好き侍の自分としては、猿桜に嫉妬してSNSクソリプ書き散らしちゃう猿空に肩入れしてました。

そして力士としての素質は残念ながら無く、呼び出しとして戻った清水がずっと猿桜を支えるのも良いですね。問題だらけの猿桜を信じ続ける奇跡の拠り所ですよ。(さすが、染谷氏、細かい芝居を効かせてました。眼鏡が若干曇ってるのも良い)

 

他の登場人物の実在感も素晴らしかったですし、衣装も良かった。瀧親方は怖いし可愛いし、小雪女将は言外にめっちゃ匂わすし、猿谷の言葉少ななベテラン感とか(妻も良かった)、松尾スズキのこういう人いそう感とか、余ママ彼氏の「あ、ここアイコスもダメ?」とか…(忽那氏は個人的にはもうちょい…。少し弱かったように思います)

 

今作は猿桜の成長をメインに置きつつ、相撲界の「色々な」部分を少しですが描けたのは良かったと思います。女性排除や八百長もそうですが、特にあの稽古と称したいじめ、というか暴行ですよね。実際に問題になりましたし、死者も出ている。大問題だと思います。

人によっては高校生くらいから部屋に入って共同生活をしながら稽古する特殊な環境だし、「伝統」という抗えない圧力でどうしても閉ざされがちになってしまうのかもしれませんが、続けていくには人間を尊重した改善は必要だと思います。

(ただ本作でそこをこれ以上盛り込もうとしたら「D.P.」みたいなテイストになっちゃうのでこれはこれで良いかと)

 

ラストは俺の闘いはこれからだ!パターンだったので、シーズン2あるのかな?まだ横綱出てきてないですし、予算とスケジュールが合えば作られそうな感じですよね。役者さん大変だと思うけど、あるなら絶対観たいです。

 

最後にYouTubeに上がってるメイキングというかセット探訪動画でのキャスト陣のキャッキャ感が最高だった事を書き添えて。

 

とても面白かったです!!

 

四半世紀を経た「SLAM DUNK」

往年の名作漫画「SLAM DUNK」を映画化というニュースに耳を疑って約半年、まあ配信でいいかと思っていたら周りから聞こえてくる評判があまりにも高く、これは押さえておくかと観に行ったら、物凄く素晴らしかったという。

 

映画「THE FIRST SLAM DUNK」の感想を書こうと思ったものの、どうしても原作を再読したくなって友人に全巻借りたら、こちらもあまりの素晴らしさに打ちのめされたので、漫画について書きます。

(いや勿論持ってたんだけど、実家の彼方に消えてしまったんですよ)

 

 

当方、スラムダンクリアルタイム世代で毎週ジャンプで読んでましたし、今のアラフォーはだいたい今作でバスケのルールを覚えたと思います。いまだにレイアップは庶民シュートって変換されますし。

 

ただやはり小学生時と現在では見え方の解像度も上がりまして。

 

今回1番印象的だったのは、主人公桜木花道に対してでした。

私、個人的に「主人公」にあまり興味がなくて。主人公って、主人公張るだけに常人とは違うじゃないですか。悟空も幽助も炭治郎もナウシカもゴンも常人には持ち得ない才能と狂気で物事を成し遂げていく。

だからこそ主人公なんですが、私は悟空よりクリリンに、幽助より桑原に、炭治郎より善逸に、ナウシカよりクシャナに、ゴンよりキルアに感情移入してしまう。出来ない事があるから。

 

花道も記憶の中では何となくそういった、狂気じみた主人公カテゴライズだったのですが、

すみません、全然違いましたね。

 

勿論、彼は驚異的な身体能力(しかも超バスケ向き)と自信過剰な性格という、分かりやすいカードを持ってはいますが、めちゃくちゃ地道に努力するし、悩むし、落ち込む。

 

この地道な努力がとても良かったです。井上先生がバスケ経験者である事が最大限生かされているというか。

バスケに限らず、どれだけ素質があっても上達しようと思ったら近道は無い。これをやれば3日で出来るようになるとか無い。

地味でつまらん反復練習を恐ろしいほど長時間費やして、ようやく少しずつ上達するんですよ。ビヨンセも言ってた。基本が大事って。

 

要所要所に挟まれる地道な練習シークエンス、

そして遂にシュート練習に行けたときの、「シュートの練習は楽しかった」というあの囲み。

あれは名シーン。

ああいう気持ちって全ての事の過程にあるんじゃないかな。

 

それとシュート練習2万本終えた後に花道が実感する流川のシュートの凄さ。あれも物凄く真実ですよね。チョロっとかじった位じゃ、物事の本質は分からない。

 

 

 

花道って多分これまであまり生活や家庭環境に恵まれて来なかったと思うんです。

主人公なのに、驚くほど過去エピソードがないのも印象的でした。赤木、三井、小暮の3年チームの豊富さに比べて、花道たった1ヶ所という。(まあ、冒頭の失恋シーンと過去っちゃ過去かもだが)

 

ただその1つだけのエピソードでかなり想像できて。

家は古い木造アパートだし、おそらく父親はあの時亡くなってるし、母親は生きていたとしても近くにはいないんでしょうね。

 

ヤンキーとして大人にきちんとした保護をされず荒れた生活を送っていても、倫理的に大きく外れなかったのは、桜木軍団もとい水戸、大楠、野間、高宮たちがいたからだろうなと思いました。

 

彼らも本当に良い。

彼らの信頼関係、凄く良かったです。どんどん状況が変わっていく花道を嫉妬するでもなく心から応援して一緒に特訓にも付き合う。花道の居場所を奪わないように、悪者にもなってあげる。持つべきものは友達ですわ。(同じ事はミッチーと徳男にも感じました。徳男、お前はいい奴だよ)

 

ちょっと逸れますが、ミッチー殴り込みターン、小学生の時、本気で怖かったです。

鉄男が。

あそこってバトル漫画と違って日常の中の唐突な暴力じゃないですか。学校とか部活とか自分が知ってる世界に現れる暴力。

それをあの画力で描かれるので本当に怖い。

あの時、暴力を振るわれる恐怖、そして暴力を振るう事を全く厭わない人間に対する恐ろしさを知りました。

(鉄男もね、あんだけ身体能力が高いだから環境が違えば別の人生があったはずよ…花道のダークな合わせ鏡ですね…)

 

もう1つ、今回は豊玉編が心に残りました。

それまでのチームにはない悪役感満載のいかにも噛ませ犬な登場でしたが、彼らには彼らの想いがあった。

私の大好物であるところの

「向こうの事情」。

物語に都合の良い悪役には決してしない所が素晴らしい。

自分たちが頑張れば恩師が戻れるかもという、大人からしたら甘々な考えだけど、彼らもまだ高校生なんだよなという。

 

 

山王戦での花道が、リバウンドだけに集中しようとしたあの時、

「こんな風に誰かに必要とされ、期待されるのは初めてだったから…」というあの囲みに大号泣しました。

花道のこれまでの人生の苦難がこれだけで良く分かる。これが必要なんですよ、人は。

過度のプレッシャーで潰れる事もあるかもしれませんが、まずはこれを経験しないと。あなたが必要だと言ってもらわないと。

 

才能ある無いは別にしても、好きな事を見つけ、上達する楽しさを知り、自分を認めてくれる環境。全ての子供をその状況に置きたい!

花道にとって本当に良い出来事だっと思います。

 

ゴリに対する信頼感もいいですね。

初めは反抗していたものの、おそらく生き物として圧倒的に叶わないという動物的勘と、バスケットに対する狂気じみた情熱に感服して、(本人は決して口に出さないだろうけど)尊敬してますよね。

花道にとって、初めて尊敬できる人間だったのではないかな。(褒められるとビックリするのがまた良い)

 

とにかく人間味溢れる魅力的なキャラクターで長く愛されるのがよく分かる、大好きな主人公になりました。

 

他、再読した感想をザクッと。

 

流川は風化した記憶の中ではクールなイメージでしたが、めっちゃキレやすかったですね。

感情が表情に出ないだけか。よく寝るのは覚えてた。

安西先生と矢沢のエピソードがすごく大人。っていうかこのトーンを少年ジャンプで描くって凄い。

リョーちんと花道が仲良くなるターンが大好き。

ミッチーが練習で花道抑え込むところも大好き。ああいうワイワイしたシーンずっと見たい。

当時の推しである小暮くんは今もやっぱり良かった。決めるところで決める男。

すっかり忘れてたけど、青田最高。

 

 

最後に

リアルタイムで読んでいた時は、山王戦が物凄いボリュームで読者としては面白いけど結構ヘトヘトになっていたんです。

だから勝利した時、本当に嬉しかったんですが同時にこれって全国制覇するまで続くのか…?

私の体力持つかなという懸念がよぎった次の瞬間のアレ。

 

衝撃的でした。

何というか、あの流れで世の中の苦さを教えられたというか。大人の階段、登らされました。

 

当時は子供だったので、やっぱり続きが読みたいー!!!!となったんですが、(本誌では1部完という匂わす表記だったし)、今となってはあの余韻がベストなんでしょうね。

 

とはいえ、今回再読した事でめっちゃ想像しますけどね!

花道と流川と関係性とか、主将としてのリョーちんとか(アヤちゃんとどうなるのかとか)、

ミッチーのその後とか、大学生のゴリとか

この先の試合とか!!!

 

同窓会のイラストとか見たい…

 

という夢を抱きつつ、いつかまたちゃんと全巻買います!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

もっとコネクトしたかった「コネクト」

「コネクト」韓国ドラマ 2022

(ネタバレあり!!!)

 

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韓ドラ「D.P.」が素晴らしかったチョン・ヘインと推しのコ・ギョンピョがW主演な上に日本から三池崇史監督がメガホンをとるという事でとても心待ちにしていた作品でして。

(「D.P.」ほんと良かった…ほんとはこっちの感想書きたい…)

 

すっっっぐ観ました。

 

 

すぐ観たんですが、、

 

う、う〜〜〜〜〜ん………

 

なんと言うか、、、

 

端的に言うと、あんまり刺さらなかったです…。

 

正直、三池作品は「13人の刺客」しか観たことなくて(大好きでした)、どこまでが監督の意向か分からないんですが、ちょっっっっと凡庸だったかなと。全体的に。

 

良いなと思った所は、

 

序盤抉り出された両目がキョロキョロ動くのが可愛かった

毒ガスの中、防護服を着て仁王立ちのギョンピョの画がカッコ良かった

放り出された死体の局部をチラ見するヤクザが無駄に長尺で笑えた

ちゃんとグロい

 

その位かな…。

 

 

個人的に、こういった奇抜な設定の場合、それ自体は全然好きなんですが、本当にその人達がこの現代に生きてるリアリティーが欲しいと思ってしまうんですよね。

 

主人公ドンスは家賃の安い屋上のプレハブに住んで、おそらく身元確認とかないであろう廃品回収の仕事をしてましたが、

 

殺人鬼ジンソプの超高級マンションとか(あの企業そんなに稼げるのか?)死体アートアトリエとか(あそこ誰か来ちゃわん?)、イランは身元証明も無くどうやって生きてきたのかとか。

 

警察の方も、あんだけ自社の屋上で大暴れして2人も殺したら、そっちの容疑でジンソプ立件するんじゃない?物証バキバキに残ってるでしょ。

ここの流れもジンソプ油断し過ぎだし(ノートくらい隠さんと)、話の都合優先だなぁと思いました。

 

あと、あまり演出として上手くないなと感じる箇所もいくつかありました。

 

世話になった爺さんに挨拶する時、子役になるけど、そこが一連に見えず…

刑事との屋上でのやり取りもパッとしないなと。

 

キャラクター自体も今ひとつというか、ありきたりというか。

設定は擦られまくってたとしても、そこに何かひとつでも新しい描写があれば、もっと入り込めたんですけどね。それが表現出来る役者陣なのに勿体無い。(youtube繋がりというのは新しかったですね)

 

このドラマ、結局6話で終わらず、物凄く尻切れトンボ感で幕なのですが、シーズン2前提だったとしても、まずはこの回でとりあえずまとめ切った方がテンポも上げられるし良かったのではと思います。

 

めっちゃハラハラする設定なはずなのに、観てる間うっかり退屈してしまう瞬間が結構あって…

 

2はなぁ…ちょっと観るかわかんないです。

 

ただ、好きな人は好きだと思うので(全てそうですが)サクッと鑑賞するのには向いてると思います!!

それに感情を乗せてくれるな『地獄が呼んでいる』

『地獄が呼んでいる』(原題/HELLBOUND)

韓国ドラマ/2021年

 

 

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 (ネタバレあり!!!)

 

 

 

突如、死亡宣告をされた人間が予定時刻に3体の黒い使者の手で残虐に殺害される超常現象が起きるホラースリラー。

 

 

 

ぼんやりネッフリを開いたら、自分好みのティザーが流れてきたので、イソイソと鑑賞してまいりました。

 

 

 

んーーーーーー

 

乗れなかったですねーーーーーー…

 

 

観てる間、ずっと胸糞悪かったです。

 

 

 

 

この胸糞悪さの原因をずっと考えていたのですが、

 

今作の、いきなり死亡予告をしてくるデカくて怖い顔と当日ぶっ殺しに来る3体の何か、そしてこの現象自体の謎は最後まで解明されません。

 

まぁこれは、理不尽に「死」をもたらす災害や疫病などのメタファーなんだと思います。

 

奴らの諸々のデザインは置いといて、それ自体はいいんですが、

 

うーん

 

その現象に凄く感情が乗っているように見えたんですよね…。

 

 

特に3体の方はなんかバチ切れてて、殺す際に物凄く凄惨なリンチをするんです。あんなパンチ喰らったら人間なんて一発で粉々になると思うんですが、とにかく執拗に殴ったり斬りつけたりする。でも何故か被害者は最後まで意識があって、生きながら消し炭になるまで業火で焼かれると。

 

 

災害や疫病に感情など無いはずなのに、それを感じてしまう、そしてその先に作り手側の感情が透けて見えてしまったというか。

 

 

何というか全体的により過激に過激にという思想が感じられたんです。

 

 

物語を語る上で必要な表現なら、どんなにキツい描写でも割と大丈夫なんですが、今作はそれが目的化してないか??と。

 

おそらくそこが自分にはしんどかったのではないかと思います。(とにかく子供を絡めてくるのも辛い。新生児が地獄へ堕ちるって何だよ)

 

(それにあの暴力と地獄という文言、何かの怒りを買ったとしか思えないし、だとすると死に対して詳細は分からんが何かの怒りを買ったからという説明が出来てしまう。何もかも全く分からないから死は恐ろしいものなのでは?)

 

 

一方で、この超常現象を神の審判と勝手に意味付けて民衆を煽り、私腹を肥やしまくる新興宗教団体の描き方は皮肉がきいてて良かったです。

自分は宗教の歴史に明るくありませんが、こういう事が至る所で繰り返されてきたのであろうと容易に想像できました。

 

 

主要な登場人物もとても魅力的な造形だったと思います。

ただモブとしての群衆の扱いがちょっとザツ過ぎないかと…。(あの凄惨な生中継の後、病院にも警察にもひとっこ1人いないってどういう事?)

 

キャラクターの行動も展開の為にある様な所がちょいちょい散見されて萎えました。

(我が子が明日死亡宣告されてるのにノコノコ職場に出社するか?)

 

 

全6話というタイトな作りも影響しているかもですが、今ひとつ入り込めなかったですね。

 

 

とはいえですね、役者陣は本っ当に良かったですよ。

 

 

初代議長チョン・ジンスを演じたユ・アインの芝居は素晴らしかったですし、刑事の娘を演じたイ・レの復讐を果たした時の表情。君は「ミッドサマー」のフローレンス・ピューか。

 

後半の主人公ぺ・ヨンジェ役のパク・ジョンミン。「応答せよ1988」でのボラの感じ悪い元カレですよ。「ザバハ」でめっちゃいい味出してましたし、今回の飄々とした出だしからの感情の振れ幅、最高でした。大好き。

 

弁護士役のキム・ヒョンジュはすんません、一瞬ユン・セリかと思っちゃいましたが、アクションのキレ良かったです。願わくば、あそこまでの暴行受けたんだから、片目失明とかして「来る」の柴田理恵くらいのインパクトは欲しかったですが。

 

他も2代目議長の胡散臭さとか、ヤン・イクチュンの華の無さとか、ユン執事(だっけ?)とか煽り系YouTuberとか…。

 

 

画面の色合いも高級感ありましたし。

 

 

見応えがあるといえばある作品なので、ただ単純に自分の嗜好と合わなかったんでしょうね。

 

私にとっては非常に気分の悪い作品でした。

 

周りの観た人達にも色々聞いてみたい所です。

 

というわけで散らし終わりまーす!