相撲という異界「サンクチュアリ-聖域-」

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(ネタバレあり!)

配信当初から話題だった本作をやっと観まして。

とても面白かったです!

一部では相撲版スラムダンクと言われているようですが、直近でスラダン再読した自分に丁度良かったですね。

 

今作、やはり私も「相撲」の再現度の高さに驚きました。特にお相撲に詳しい人間ではないのですが、多くの日本人と同じように幼い頃から相撲は日常の中にあるコンテンツだったので、それなりに正解を知ってるとは思うんです。なのに稽古場も国技館の取り組みも全く違和感が無かった。TVで観てきたまんまで驚きました。

 

そしてあの本物の力士とみまごうほどの役者陣たち。圧巻でした。

色々な記事を読むと2年以上の時間をかけて準備撮影したそうですが、そりゃそうだよねぇと。そのくらい時間かかるよね。それが出来る環境がまず羨ましい。

身体の大きさもさることながら、相撲の取り組みが本当に相撲なのも凄い。他のアクションと違って、ちゃんとぶつからないと撮れないシーンだらけですから、役者さん達はどれだけ努力したのかと。元力士の方もかなり参加していたのも大きかったんでしょう。

改めて考えると、相撲ってやっぱ他の格闘技と全く別物だなと。どの格闘技も厳密に体重で階級分けられている中、完全にスーパー無差別級ですもんね。90キロと200キロがやるって普通無理というか、死ぬでしょっていう。それを取り組みとして成立させる為に、型を永遠に繰り返して稽古していくんだなと実感しました。

本物感のもう一つ、セットも素晴らしかったです。あの国技館がセットだという事実も驚きですが、それぞれの部屋の生々しさたるや。

幕下力士の相部屋やちゃんこ部屋、猿桜の実家、そしてあの静内の家など…とくにあの静内の家の中、あれはきつかったです。極貧なはずなのにモノとゴミで溢れかえっているあの感じ。部屋って持ち主の精神状態が反映されると言いますが、これでもかってくらい理解しました。ある程度、気持ちと時間に余裕がないと人間片付けなどできんのだ…

 

ストーリーは割と王道というか、元不良の成り上がりもの+負け犬たちのワンスアゲインもの(©︎宇多丸師匠)なので、観やすかったですね。

ただ、8話の中で7話目でようやく熱いスポコンものが来るというかなりゆっくりな展開は意外でした。

この、シリーズほぼ使った人間模様の丁寧な積み上げがドラマとしても分厚かったです。

というか、たった8話に結構色んな要素詰め込んでたなと。

相撲の稽古に加えて、各キャラのバックストーリー、親、角界の暗部、スキャンダルなどなど。でも全然混線してませんでした。

 

特にメインキャラとやばい親各種。いわゆる「毒親」と括られがちだと思いますが、そこまで短絡的に描いていない所が好感持てました。

必死に生きてきたけれど、ある地点から上手くいかなくなってしまった人間というか。あの人たちも別に悪として生まれたわけではないんですよね。自分も子供もちゃんと幸せであってほしかった人達。

ただ、上手くいかなくなった時に圧倒的被害者になるのが子供という…特に静内…あれは壮絶…

確か静内って一言も台詞無かった気がするんですが(あった?)、あの巨漢と相まって物凄い存在感でした。序盤のあの取り組み、地獄の様に怖かったです。張り手で人殺せるのマ・ドンソクだけかと思ってたけど、静内がいたわ。耳取れる描写とか嘘だろと思うけど、うん、取れるかも、あれは。(猿桜の、えっ…耳…っ、が超リアル…)

その静内も理解不能なモンスターではなく、絶望や怒り、恐怖を抱えつつも強い力士になる事を夢見ている1人の人間として徐々に立ち上がってくる後半が良かったです。(巨体とシロツメグサの冠という最高のマリアージュ)

思い返せば、猿桜との取り組みで立ち会い直前に浮かべるあの表情も狂気の笑みではなく、母親の辛い時こそ笑えという言葉から来ていたんですよね。そもそも顔に大きなケロイドがあり、凄惨な事件の遺族であり(おそらく犯人扱いもされ)、異常な強さと寡黙さから部屋でも周りから距離を置かれていた中、猿桜だけはなんも気にせず無遠慮にズカズカ詰めてきたけど、そういう関係性が静内にとっては嬉しかったし大事だった。のに、よりによって猿桜からの八百長を仕掛けられて(実際猿桜関係ないのに)とても悲しかったんだなと。

 

一方で、角界サラブレッドであり、横綱を目指す現大関、龍貴関。見栄えも良く、マスコミ受けも完璧。こちらも非常に見応えありました。

横綱で現親方の強権的な父親と、超絶過保護な母親というかなり毒々しい家庭に育ち、自信に満ちた振る舞いの裏で、プレッシャーからひと知れず嘔吐を繰り返す彼。こっちはかなりやばいですな…

この父親はちょっともう手遅れというか。とにかく龍貴を全力で否定しまくる癖に、助言を求められるとはぐらかすみたいなのね、ほんと最悪。父親の中に答えないだけだからね。自分のメンツの為に息子を横綱にさせたいけど、自分は超えてほしくないみたいな。タニマチが宗教の教祖だった時はもう詰んだなと…。龍貴、早く逃げて…。(あの父親も横綱にまでなったのに何があったんや…)

 

そして我らが猿桜ですが、本当に魅力大爆発でしたね。よくぞ彼をキャスティングしてくれたと。

地元じゃ札付きのワルで、すぐガルガルするしすぐ舐め腐るし、すぐ逃げようとするけど、ちゃんとチャーミングさもあるという。(土俵での煽り方とかクラブでのダンスとか、めちゃくちゃフィジカルセンスありますよね)

 

素質は十分なのになかなか本気にならないし、言うこと聞かないし、中盤では力士生命に関わるほどのトラウマ負って稽古出来なくなるし、女には財布盗られるし、タニマチクソだし、母親もクソだしで、かなり焦らされましたが、ようやく開眼した彼が本気で相撲に取り組み、その熱意が部屋全体を巻き込んでいく7話はどうしたってアガりました。これがっ!これが観たかった!!

 

力士達の関係性も凄く良かったです。コンプレックス大好き侍の自分としては、猿桜に嫉妬してSNSクソリプ書き散らしちゃう猿空に肩入れしてました。

そして力士としての素質は残念ながら無く、呼び出しとして戻った清水がずっと猿桜を支えるのも良いですね。問題だらけの猿桜を信じ続ける奇跡の拠り所ですよ。(さすが、染谷氏、細かい芝居を効かせてました。眼鏡が若干曇ってるのも良い)

 

他の登場人物の実在感も素晴らしかったですし、衣装も良かった。瀧親方は怖いし可愛いし、小雪女将は言外にめっちゃ匂わすし、猿谷の言葉少ななベテラン感とか(妻も良かった)、松尾スズキのこういう人いそう感とか、余ママ彼氏の「あ、ここアイコスもダメ?」とか…(忽那氏は個人的にはもうちょい…。少し弱かったように思います)

 

今作は猿桜の成長をメインに置きつつ、相撲界の「色々な」部分を少しですが描けたのは良かったと思います。女性排除や八百長もそうですが、特にあの稽古と称したいじめ、というか暴行ですよね。実際に問題になりましたし、死者も出ている。大問題だと思います。

人によっては高校生くらいから部屋に入って共同生活をしながら稽古する特殊な環境だし、「伝統」という抗えない圧力でどうしても閉ざされがちになってしまうのかもしれませんが、続けていくには人間を尊重した改善は必要だと思います。

(ただ本作でそこをこれ以上盛り込もうとしたら「D.P.」みたいなテイストになっちゃうのでこれはこれで良いかと)

 

ラストは俺の闘いはこれからだ!パターンだったので、シーズン2あるのかな?まだ横綱出てきてないですし、予算とスケジュールが合えば作られそうな感じですよね。役者さん大変だと思うけど、あるなら絶対観たいです。

 

最後にYouTubeに上がってるメイキングというかセット探訪動画でのキャスト陣のキャッキャ感が最高だった事を書き添えて。

 

とても面白かったです!!