全ては彩度とお花の向こう側「Dinner」

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(映画版、小説版のネタバレあり!あと、蜷川作品好きな方は読まないで!)

 

こちら「Dinner」

 

観ました。

 

もう10年以上前に平山夢明氏の小説「Dinner」を読んだのですが、面白過ぎてすぐにもう1回読んだ思い出あります。

 

平山氏の著作は、本屋で「独白するユニバーサル横メルカトル」をジャケ買いして一気読みしてから全作ではないのですが、ちょこちょこ読んでます。

私は元来「痛そう」な描写が苦手でして、そのせいで映画「ホステル」も観てないんですが、平山氏の作品はとにかく「痛そう」。なのに、物凄い筆力と圧倒的な面白さで読めてしまう。

 

Dinnerは殺し屋たちが集まるダイナーが舞台なので、とにかく痛そうな、凄惨なシーンのオンパレード。そしてそこに主人公の1人オーナー、ボンベロが作る超絶美味しそうなお料理描写が同時に挟まってきて、ほんと頭がおかしくなりそうな作品。(最高)

 

もう一つ、平山作品の特徴として、無国籍感があると思います。本作も一応日本っぽいんですが(もう1人の主人公の名前はオオバカナコだし)キャラクターの名前はそれぞれだし、湿度の低い荒涼とした土地を思わせるような作風で、しかしそれらがきちんと世界として成立しているのが魅力だと感じます。

 

つまりはファンなんです。

 

で、この映画版「Dinner」

 

これなんで観たかっていうと、友人たちとアレな作品を敢えて観るという悪趣味な会を定期的に開催してまして。だから完全に当たり屋です。文句言う為に観てるんで、こっちが悪いんです。今作の為に尽力された沢山のスタッフの方々は悪くないです。ただあまりにもアレだったので、記念に書き記しておきます。(今作や蜷川実花作品が好きな方は読まないで※2回目)

 

 

なんというか、ほんっとーーーーに蜷川実花という人とは合わないんだなと思い知らされましたね。

 

あの原作から、こうなんのかという…。ちゃんと読んだ…?

 

というか、彼女はやっぱこれしか引き出しがないんでしょうね。どんな素材も、バッキバキの彩度とお花で埋め尽くすっていう。まぁ逆にこれが蜷川印というか、作家性といえば作家性なんだろうけど。

 

なんか全ての解像度がめっちゃ荒いんですよ、彼女。メインのひとつである料理が特に魅力的じゃないし。「ガワ」しか見てない感じ。あのキュウリ丸ごと一本挟まったハンバーガー何?ピクルスってこと?生にしか見えなかったよ?最後の晩餐の料理の粒々も何?ボンベロ、そんなチャラいメニュー作らないよ。あの絵面しか意識してないキッチンも何なんだ。ボンベロ、プロだぞ?

 

人間がさっぱり描けないことは「followers」で証明済みですが(これも当たり屋した)、ここは原作が傑作だった事に助けられて(あと役者陣が頑張ってた)、スキンやキッドなどキャラとして印象には残る。

でも後は有名人出してお茶濁してたっていうか。

あと、気味悪いのは自分の親父の肖像画を亡くなったボスとして出してたけどさ、それは5万歩譲ったとして、終盤で藤原竜也に俺はこのボスに見出され育てられたって言わせるの、あまりに作品の私物化が過ぎるだろ。それやりたいんならオリジナルでやってくれよ。ひとの作品でやってくれるな。

 

原作では、大殺戮から1人逃げ出せたカナコが逞しく成長し、ゴロツキ相手に自分の店を切り盛りしつつ、いつかボンベロと菊千代が来てくれるはずと信じ続ける、カラッとしたエンディングだったんですが(店名の由来とか、爆発の後、ボンベロと菊千代の遺体が見つからなかったというくだりとかが沁みるのよ…読者としては、何十年後かに2人は再会出来ると信じたい素敵なラスト)、

 

勿論、映画ではすぐ再会するから。余韻とかない。そうだとは思ったけど、やっぱそうだったわ。

 

原作の良さをほとんど無くして、蜷川カラーで塗り潰したペラペラな作品だったですが、なんで彼女はこんなにしょっちゅう映画作れるのかがほんと謎で。一体どういう企画会議が行われているの?この先作る作品もおそらくこのテイストだし、大ヒットという話も聞かないし(私が知らないだけ?)、この予算を他の人に回してあげてくれないかな。

 

というわけで全くお勧めできないけど、観たかと聞かれれば観たよと答える、そんな作品でした。